高松地方裁判所 昭和30年(ヨ)134号 決定 1955年10月10日
申請人 菅正三郎 外五名
被申請人 四国電力株式会社
主文
被申請人が昭和三〇年八月二三日申請人らに対してなした解雇の意思表示の効力は、いずれもこれを停止する。
申請費用は被申請人の負担とする。
(注、保証金各十万円)
理由
申請人ら代理人の提出した疎明資料によつて当裁判所が一応認定した事実、及びそれに基く当裁判所の判断は次のとおりである。
(事実関係)
申請人六名(以下単に申請人らともいう)は、いずれも被申請人会社(以下単に会社ともいう)に雇傭されていた者であつて、申請人菅は被申請人会社本店労務部労務課労務係、申請人田中は同会社松山支店西条営業所営業係、申請人石原は同会社徳島支店徳島営業所鴨島出張所、申請人山中は同会社高知支店電力課給電指令所、申請人樫谷は同会社高知支店電力課発電係、申請人大広は同会社多度津支店丸亀営業所営業係にそれぞれ勤務していたところ、会社は申請人らに対して、いずれも昭和三〇年八月二三日付を以て、それぞれ懲戒解雇の意思表示をなした。会社において右各懲戒解雇の原因として指摘するところは、概括的にみると、曽つて昭和二七年末頃、当時申請人らの所属していた日本電気産業労働組合(以下電産という)が、労働協約の改訂、及び賃金退職金の増額改訂などを要求して、被申請人会社を含む全国九電力会社を相手どり、全国的規模において労働争議を展開した際、組合員であつた申請人らとしてもまたそれぞれ当該争議に参加したところ、申請人らにおいては、その争議行為に随伴してそれぞれ会社の業務を妨害するような違法、不当な行為を自ら実行し、或はそれを企画、指導したことに因るものであるとするのであるがこれを申請人毎に個別的にみると、当該行為の具体的な内容は、次のようなものであるというのである。即ち、
(1) 申請人菅については、(イ)同人は当時電産四国地方本部(以下電産四国地本という)執行委員長の地位にあつて、四国管内七個所における電源職場の労務提供拒否ストを企画し、指導し、且つ遂行して所属組合員にその争議行為を実施させたが、その結果、当該争議行為の実行者の中より、会社の業務を妨害するような者を生ぜしめるに至り、(ロ)尚、右争議行為中の一であつて、昭和二七年九月二四日に実施された高知県吾川郡上八川村木ノ瀬所在の四国電力分水第四発電所堰堤における労務提供拒否ストにおいては、自らその指揮に当り、同堰堤の取水門扉を閉鎖して発電機への送水を遮断したため、予て会社より会社側運転要員として同所に派遣されていた被申請人会社高知支店電力課長佐藤三代男が、取水門扉を開いて発電機へ送水する目的を以て、同日午後〇時四五分頃、同堰堤見張所内において、電磁制御函の開戸を開け同函内の「スイツチ」を操作しようとするや、菅は佐藤課長の背後から両手を以てその両肘附近を押え、他一名(申請人山中)とともに同課長と電磁制御函の間に割つて入り、同課長の前に立ち塞つて同人を電磁制御函から引離し、その「スイツチ」操作を不能ならしめて会社の業務を妨害し、
(2) 申請人田中、同石原については、申請人田中は当時電産四国地本副執行委員長の地位にあり、又、申請人石原は当時同じく同地本書記長の地位にあつて、いずれも申請人菅に関する前記(1)の(イ)と同様な行為をなし、
(3) 申請人山中については、同人は当時電産四国地本高知県支部書記長の地位にあつたが、昭和二七年九月二四日に実施された前記分水第四発電所堰堤における労務提供拒否ストにおいて、自らその指揮に当り、同日午前七時一〇分頃、自己の手によつて電磁制御函の「スイツチ」を操作し、取水門扉を閉鎖して発電機への送水を遮断したため、予て会社より会社側運転要員として派遣されていた被申請人会社高知支店高知営業所長谷脇美樹が、取水門扉を開いて発電機へ送水しようと考え、それに必要な「スイツチ」の操作をする目的で、同日午前七時四〇分過頃同堰堤見張所内に入室しようとするや、その入口に立ち塞つてこれを制止し、なおも入室しようとする同所長を室外に押し返してその入室を拒み、更に、同日午後〇時四五分頃、同じく会社より会社側運転要員として派遣されていた前記佐藤三代男が、右谷脇所長と同様の目的で、右見張所内において電磁制御函の開戸を開き、同函内の「スイツチ」を操作しようとするや、左手で以て同人の腰部を押し、且つ他の一名(申請人菅)とともに右佐藤と電磁制御函の間に割つて入り、同人の前に立ち塞つて同人を電磁制御函から引離し、その「スイツチ」操作を不能ならしめて会社の業務を妨害し、
(4) 申請人樫谷については、同人は当時電産四国地本高知支部分水分会副執行委員長の地位にあつたが、昭和二七年一二月八日に実施された高知県吾川郡清水村下分所在の四国電力分水第二発電所における労務提供拒否ストにおいて、自らその指揮に当り、同日午前二時三〇分頃、同発電所地階の水車室において「スイツチ」を操作し、第二号発電機の運転を停止させたため階上配電盤室にいた同発電所長川上新一が、右発電機の運転を開始せしめる目的を以て水車室に赴こうとし、直ちに右配電盤室より一階発電機室まで階段を駈け降りたところ、折柄発電機室内にいた樫谷は、矢庭に川上所長の前面から両手をひろげてこれを制止し、なおも前進しようとする同所長を数歩後方である右階段昇降口横の壁まで押し返し、更に、同日午前四時頃、右川上所長が、前同様の目的を以て再び水車室に赴こうとするや、右発電機室より地階水車室に至る階段の昇降口附近において、同所長の背後より抱きつき、次いで同人の前面に廻つて同人を後方に押し返し、その水車室への入室を阻止して会社の業務を妨害し、
(5) 申請人大広については、同人は当時電産四国地本香川県支部常任執行委員の地位にあつたが、昭和二七年一一月七日に実施された香川県三豊郡財田大野村所在の四国電力多度津支店財田変電所における大口需要工場の金豊製紙株式会社に対する停電ストにおいて、自らその指揮に当り、同所においては、予て会社より会社側運転要員として派遣されていた被申請人会社多度津支店庶務課長阪上修造、同労務係長増田忠雄、外臨時工員二名らが、逸早く配電盤を確保して既に金豊製紙株式会社に対して送電を継続する態勢を整えていたにも拘らず、同日午前一〇時過頃、配電盤に近接した上、阪上課長の制止をも押し切つて、矢庭に金豊製紙専用線の「スイツチ」の「ハンドル」に手を掛けてこれを引き下し、よつて右金豊製紙株式会社に対する送電を中絶せしめ、更に、同日午前一〇時五分頃、阪上課長らが再び前記「スイツチ」を挿入して右会社に送電を開始するや、同日午前一〇時一五分頃、前記「ハンドル」の下部に設備してある「リレー」を切断して再度該送電を停止させた上、数名の組合員を指揮して、配電盤の前に横列に並ばせて「スクラム」を組ませ、再び「スイツチ」を操作しようと欲して配電盤に近接しようとする阪上課長の進路に立ち塞がらせてこれを阻止し、その際、同課長より業務命令違反である旨を注意され、且つ「スクラム」を解いて即時その場より退去すべき旨を要求されたにも拘らず、これに応ずることなくして約五分間に亘り同所を占拠し、よつて阪上課長らの操業を阻止して会社の業務を妨害し
たというのである。そして、申請人らがそれぞれ右行為若しくはそれに類似するような行為をなしたことは、申請人ら提出に係る疎明資料によつても一応これを認め得るのであつて、申請人田中、同石原を除くその余の申請人らは、いずれも右各行為(但し申請人菅に関する(1)の(イ)の行為を除く)により、刑法第二三四条に該当する威力業務妨害罪の被告人として、それぞれ起訴せられたのであり、審理の結果、申請人菅は高知地方裁判所において罰金三、〇〇〇円、申請人山中、同樫谷はいずれも同裁判所において各罰金五、〇〇〇円、申請人大広は高松地方裁判所において同じく罰金五、〇〇〇円にそれぞれ処せられたが、それら各第一審判決に対してはいずれも控訴の申立がなされ、右各被告事件については、すべて第二審である高松高等裁判所において現に審理が続けられているのである。元来、申請人らがそれぞれ指導し、或は実行に当つた前記電源職場における労務提供拒否スト、乃至変電所における停電ストそれ自体は、すべて電産中央本部よりの指令に基き且つ組合の上部機関から指示された綿密な「実施要領」に則り、所属組合員の義務として、一貫した統制の下に、計画的に遂行されたものであつて、それは、当時電産の試みた全国的規模をもつ争議行為の一環をなすべき重要な争議型態であつたわけである。そして、就中、電源職場における労務提供拒否ストなるものは、当時四国管内のかなり多くの個所において、略々同様な構想、方式により実施せられたものであつて、その結果、少なからざる個所において、会社側関係者と組合員らとの間に必然的に多少の磨擦を生じ、そのため、申請人ら以外の組合員においても、申請人らがそれぞれ前記のような業務妨害的行為を惹起したのと同時若しくは相前後して、申請人らがなしたと殆んど同様な内容を有する業務妨害的行為に出た者も若干あり、その内からは、申請人らと同じく、威力業務妨害罪の被告人として公訴を提起された者もでたのであるが、審理の結果によると、内三名は、松山地方裁判所において、所謂期待可能性がないとの理由によつて無罪の第一審判決をうけ、又、内三名は、高知地方裁判所において、同人らの行為は労働組合法第一条第二項本文刑法第三五条により労働法上許されたる正当な行為であるとの理由によつて同じく無罪の第一審判決をうけたのであつて、それらの者に対しては、会社としても、何ら懲戒解雇の対象とはしておらないのである。尚、最後に附け加えるべき事実は、会社は、申請人菅、同田中、同石原らについて、その懲戒解雇の原因として、同人らが前記のような業務妨害的な行為を惹起すべき争議行為をそれぞれ企画し、指導し、且つ遂行したことを挙げているのであるが、そうとすれば、右申請人三名以外にも、当時これら三名の者と同等若しくはこれに匹敵するに足る重要な組合役員の地位を占め、且つ当該争議行為についても恐らくは右三名の者と殆んど同等程度の役割を果したであろうと推認することのできる者らが他に存在しているにも拘らず、会社においては、現在、それらの者について格別懲戒解雇などのような強い処分をなしていないことである。
(当裁判所の判断)
申請人らは、本件各懲戒解雇はいずれも懲戒権の濫用であり、又、不当労働行為を構成するからすべて無効である旨主張しているので、この点について順次考えてみよう。
およそ、一企業体内における労使関係において、使用者が労働者に対して有する懲戒権なるものは、その本質からすれば、企業運営の担当者である使用者が、企業体の事業目的を達成すべき目的の下になす経営の必要上、労働者に対して発する業務命令の有効性乃至強行性を担保し、受命者たる労働者をして事実上当該命令に服従することを強制するため、業務命令に違反する労働者に対して或る種の制裁を科することができる使用者の権限であるが、更に附随的には、右のような業務命令違反以外の労働者の行為についても、それが、企業体の構成分子の行為として、企業体維持の見地から観察して充分非難されるに値する行状である限りにおいては、それを懲戒原因として、当該労働者に対して懲戒権を行使することもまた許容されるところであるといわなければならない。しかしながら、いずれの場合においても、右懲戒権の行使は、当該企業体の経営秩序を維持し、且つその業務執行をして正常円滑にならしめるに足る必要にして最少限の範囲内にとどめるべきものであると解するを相当とする。このことは、右に述べた使用者の懲戒権なるものの性質からして、条理上当然そこに内在せしめられている制約からくるものである。蓋し、一般的に考察して、現代社会における企業体なるものは、先ずその所有と経営が分離せられているものが多いのであつて、その企業運営においても、経営者である使用者と、経営についての補助者である労働者とが、それぞれ互に相協力して企業の維持、発展に努めているわけであるから、労働者といえども、通常、その属する企業体については相当なる程度において貢献しているのであつて、そのような労働者が、かなりの期間に亘るべき勤務中のある時期において、偶々多少の非行を犯すことがあるとしても、その非行に対する企業体の制裁は、客観的にみて必要最少限の範囲内にとどめるべき筋合のものであり、単に非行をなしたというその一事のみをとらえて、使用者が恣まに当該労働者に対して懲戒権を行使し、且つその懲戒の種別及び程度をも使用者において専断的に選択することができるものとすることは、信義衡平の法理上到底許容さるべきものではないといわなければならないからである、殊に、その懲戒解雇権の行使については、使用者において充分慎重でなければならないことが要求されるのであつて、仮に或る労働者の行為が当該企業体所定の懲戒事由に該当するものであるとしても、その非行が、企業運営上さしたる障碍をも与えず、且つ労使間における信頼関係をさまで破綻せしめないような性質、程度のものであるならば、使用者の主観的感情はともあれ、能う限り懲戒解雇の処分は避くべきものであつて、他の適宜な懲戒処分を採るべきものであると解するを相当とする。蓋し、現在における社会経済事情の下においては、企業体における使用者は、その雇傭契約を締結しようとする当初においてこそ、雇傭すべき労働者を恣まに選択する自由を有しているけれども、一旦、特定の労働者と雇傭契約を締結して、当該労働者をその企業体内に収容したならば、その後使用者においてその雇傭契約を解約することは、必ずしも自由ではないわけであつて、種々の方面よりかなりな制約、制肘をうけていることは、一般的に顕著なことであるというべく、寧ろ、特別な事情のない限り、使用者の一方的な恣意によつてその解約をすることは、許されないとせられているのに反し、使用者がその懲戒権を行使する場合においては、些々たる非行によつても、当該労働者を解雇することができるということになるとすると、労働者としては、たとえ自らにおいて多少の非行をなした落度があるとはいいながら、等しく解雇という社会的にみれば同一の結果を来すべき処分を、たやすく甘受しなければならなくなるわけであつて、前者が雇傭契約の解除による解雇であり、後者が懲戒による解雇であるという二者の質的差異を考慮に入れたとしても、両者がその均衡を失することは著しく、この点からして、懲戒事由に該当する非行があれば、当然当該労働者を懲戒解雇処分にも附し得るということは、到底是認することができない見解であるといわなければならないからである。従つて、使用者が労働者を懲戒解雇の処分に附することができるのは、当該労働者が、健全な法感情上、当然解雇されることが相当であると思料するに足るような非行をなした場合に限られるわけである。
そこで、右の点を前提としながら、本件各懲戒解雇が果して懲戒解雇権の正当な行使であるか否かについて考えてみよう。先ず、この点を判断するについて何よりも注目しなければならないことは、会社が懲戒原因として指摘している申請人らの行為が、前記のとおり、すべて労働争議中になされたものであることである。およそ、労使間に労働争議が発生し継続している期間内においては、使用者と労働者との間に存している一般的な通常の信頼関係は、一時的に破綻して消滅しているものというべく、しかも、その争議行為が、本件におけるように、労務提供拒否ストである場合においては、その期間中、使用者の労働者に対する業務上の指揮命令権は、一時的に麻痺して停止されている状態であると解さなければならないのであつて、その際、仮に、使用者が労働者に対して、労務を提供すべき旨の業務命令を発し、或はスト中止乃至ストの効果を減殺するような内容を有する業務命令を発したとしても、労働者としては、それらの業務命令を無視した上、所属組合の指令に従い、組合上部機関の指揮のままにストを続行し、或はストの効果を減殺されないように所謂「ピケツト・ライン」を張り、若し何人かが「スト破り」的な行為をなさんとする場合においては、相当な程度においてこれを阻止しようと努めることは、組合員たる労働者において当然なすべき義務の履行であるといわなければならない。そして、申請人らの行為中前記の業務妨害的行為が、いずれも、同人らが、ストを実施せんとし、又は実施したストの効果を維持するために、会社側関係者のスト実施を妨げ、又は実施せられたストの効果を減殺しようとする各行為を、それぞれ阻止したものであることは、その行為自体によつて明白であるところ、その阻止の方法、態様が、労働法上許された相当な程度である限り、所謂正当な行為として、民事上も刑事上も何らの責任がないわけであるから、会社においても、それらの行為を以て懲戒原因となすことの許されないことは当然である。しかしながら、申請人らの阻止行為が、相当な程度であつたか否かは、極めて難しい問題であつて、現に一部の刑事裁判所においては、相当な程度を越えたものであると認めて、各行為者にそれぞれ罰金刑を科したことは前記のとおりであるが、それらの判決は未確定であるから、その点に関する問題が終局的に確定しているわけではなく、又、他の刑事裁判所においては、同様な事例について、相当な程度を越えていないと判断してもいるわけであるから、刑事的見地からしても、申請人らの行為が果して、相当の程度を越えていることにより、業務妨害罪を構成するか否かは、現在のところかなり疑わしいものであるといわなければならない。しかし、本件各懲戒解雇処分の違法性を判断するについては、それらの行為が、刑事上業務妨害罪を構成するか否かということは、格別重要な意味合をもたない。従つて、仮にそれらの行為が刑事的見地から業務妨害罪の成立を肯定されるような結果を生ずるとしてもそのことから直ちに、当該行為を以て、その行為者に対する懲戒解雇の原因となすに足る正当な事由であると考えることは、許されない。寧ろ、反対に、それらの行為が、すべて争議中という異常な事態の下において、偶発的且つ瞬間的になされた些細な行為であつて、刑事的に考えてみても、せいぜい、罰金三、〇〇〇円乃至五、〇〇〇円に相当するような軽微な事犯であるとすると、それらはいずれも懲戒解雇の原因となすに足らないものであると解するを相当とする。蓋し、それらの行為は、すべて大局的にみて会社の正常な業務運営を阻害したわけのものでもなく、又、その行為の性質上、会社における使用者と各行為者との間の平常時における正常な信頼関係をさまで破綻せしめるような重大な事柄ではないと看做されるからである。このような意味において、会社が、申請人菅、同山中、同樫谷、同大広ら業務妨害的行為を現実になした者に対して、その行為を理由として懲戒解雇処分をなすことは、許されないのみならず、又、申請人菅、同田中、同石原ら右争議行為を企画指導した者に対しても、そのことを理由として懲戒解雇処分をすることはこれまた許されないものといわなければならない。従つて、会社が申請人らに対してなした各懲戒解雇処分は、その余の点について考えてみるまでもなく、この点において既に違法であり無効であるといわなければならない。
よつて、次に本件仮処分の必要性について考えてみると、右のように、会社のなした各懲戒解雇処分が、いずれも実質的にみて無効であるにも拘らず、その無効確認請求訴訟の本案判決が確定するに至るまで、申請人らがいずれも、会社より解雇された者として取扱われることは、賃金労働者である申請人らにとつて、有形無形の著しい損害を生ずることは、極めて看易いところであつて詳説するを要しないが、尚、疎明によると、申請人らはいずれも格別の資産もないままに、本件仮処分において下命さるべき保証金の調達に悩み、電産中央本部に依頼して同本部よりその立替支弁をうくべき旨の協定をも予めなしているほどであることを認めることができる。よつて、会社のなした本件各懲戒解雇の意思表示の効力は、いずれも、本件仮処分の本案判決確定に至るまで、仮にこれを停止しておくべき必要のあるものと考える。
以上のとおりであるから、申請人らの本件仮処分申請は、すべてその理由があるものと認め、申請人らがそれぞれ被申請人のために保証として各金一〇〇、〇〇〇円を供託することを条件として、いずれもこれを認容し、申請費用については、民事訴訟法第八九条に則つて被申請人の負担とした上、主文のとおり決定する。
(裁判官 槇江文幹 秋山正雄 坂上弘)